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2022.1.7

【3種の違い】相続放棄・
相続分の放棄・相続分の譲渡

こんにちは。相続税理士の天尾です。('ω')

今回のテーマは、『相続放棄&相続分の放棄&相続分の譲渡のちがい』。

 

3つはすべて、遺産の引き継ぎ方法ですが一体何がどう違うのでしょうか?

 

「違いがよく分からない」
「知識を付けて、相続方法を選べるようにしたい」

 

 

こんな方はぜひ、読んでみて下さい。

 

相続のスタイルは人それぞれ。

複数の相続方法を知っておけば選択肢が広がり、より賢い相続が実現できるでしょう。

 

自分に合った相続探しのツールの一つとして、この記事を参考下さい。

【違いを知る①】基本データ

まずは基本的な知識を理解し、それぞれの違いを全体的に把握しましょう。

 

  • どんな効果があるのか?
  • メリットやデメリットは?
  • 注意点は?

ここでは、それぞれ要点を簡単にまとめています。

ざっくり読んでみましょう。

相続放棄


◆:【相続放棄】って?

『すべての相続財産』を拒否する選択肢。

相続権そのものを放棄し、最初から相続人ではなかったことになります。

 

最大の特徴は、借金などのマイナス財産も引き継がずに済むこと。

相続することにメリットが無い時に選ばれる方法です。

 

手続きについて

家庭裁判所に申立てをし、受理されれば成立。

遺産分割協議などの話し合いでは相続放棄できません。

 

 

◆:メリット

★:相続そのものから解放される

★:マイナス財産を引き継がなくていい

 

【マイナス財産例】

借金

住宅ローン

未払い家賃

クレジットカード利用料金

未払いの税金

連帯保証人としての支払い義務  etc.

◆:デメリット

▲:後順位の相続人へ相続権が移るため、トラブルの原因となる

▲:プラス財産も一切受け取れない

 

【プラス財産例】

現金

預貯金

土地

株式

貴金属

骨董品

他の人に貸しているお金  etc.

 

◆・注意点・◆

相続を知ったときから3ヶ月以内』に放棄しなければいけない

一度受理されると、原則取り消しできない

遺産を勝手に使ったり処分すると相続放棄できなくなる

相続分の放棄


◆:【相続分の放棄】って?

『プラス財産のみ』を拒否する選択肢。

相続権そのものを放棄するわけではないため、借金などのマイナス財産は相続しなければいけません。

 

放棄されたプラス財産は、他の相続人へ振り分けられます。

渡す相手は選べず、基本的に全員。

放棄した人以外の相続財産がUPします。

 

手続きについて

放棄する『意思表示』をし、他の相続人全員が同意すればOK。

遺産分割協議書に、署名と捺印をするだけで成立します。

家庭裁判所への申立ては必要なく、自分たちだけで完結できます。

 

◆:メリット

★:相続権は移らないため、後順位の相続人に影響がない

★:相続分の放棄が成立すれば、遺産分割協議に参加しなくていい

★:比較的手軽に相続から撤退できる

★:期限に指定がなく、遺産分割前であればいつでも放棄できる

◆:デメリット

▲:借金や未払い金は放棄できない

▲:独断で進められず、必ず他の相続人と話し合わなければいけない

◆・注意点・◆

後で借金の事実』が発覚した場合、相続放棄ではないため引き継がなくてはいけない

相続分の譲渡


◆:相続分の譲渡】って?

自分の相続財産の取り分を、渡したい相手に譲る選択肢。

プラス財産のみを渡すことはできず、マイナス財産もすべてひっくるめた取り分を渡します。

 

譲る側と受け取る側との契約行為であり、当事者以外の同意は不要です。

譲る相手は、複数人や第三者でもOK。

渡す相続財産の配分も決めることができ、全部または一部のみでも可能です。

 

対価をもらう『有償』譲渡、またはタダで譲る『無償』譲渡を選ぶことができます。

 

手続きについて

とくに決められた手続きはありません。

法的には口頭でも成立しますが、トラブル防止のため【相続分譲渡証明書】を作成し、書面で契約を交わします。

 

証明書のサンプルを参考に作成してみましょう。

なお、家庭裁判所での調停で遺産分割を進める場合は、専用のフォーマットがあります。

指示に従い提出しましょう。

 



◆:メリット

★:渡したい相手を自由に選べる

★:遺産争いから抜け出せる

★:家庭裁判所での手続き不要

★:ほかの相続人からの同意不要

★:自分の遺産取り分をすべて譲渡した場合、遺産分割協議への参加不要


◆:デメリット

▲:譲渡した相手が他の相続人と疎遠な間柄の場合、トラブルになる可能性がある

▲:借金などのマイナス財産も相手に渡る


◆・注意点・◆

遺産分割後』には譲渡はできない

借金などのマイナス財産も相手に渡るが、根本的な支払い義務は消えない

債権者への効力はなく、返済を求められたら応じなければいけない

受け取った相手は、将来の相続で『特別受益』扱いされる可能性がある

 

 

お役立ちmemo

◆・他の相続人には【取戻権】がある・◆

 

取戻権とは、第三者に譲渡された取り分を買い戻す権利。

本来の相続人に取り分が戻り、遺産分けから除外することができます。

 

身内問題に関わらせたくない時に有効な方法のため、覚えておきましょう。

 

【取戻権】のポイント

 

◆:取戻権の有効期限は、『譲渡されてから1ヶ月以内

◆:無償』で行われた譲渡でも、『費用の支払いが必要

◆:取戻権を行使した場合、『相手は拒否できない

【違いを知る②】発生する税金

それぞれ発生する税金は以下のとおり。

とくに【相続分の譲渡】は条件により変わってくるため、注意しましょう。

相続放棄


◆:相続放棄した人】に発生する税金

課税される税金はありません。

ただし、相続放棄にかかる費用は発生します。

 

◆:他の相続人】に発生する税金

通常どおり相続税が課税。

相続財産が増えるため、本来より相続税額がUPします。

 

相続分の放棄


◆:放棄した人】に発生する税金

課税される税金はありません。

 

 

◆:他の相続人】に発生する税金

通常どおり相続税が課税。

相続財産が増えるため、本来より相続税額がUPします。

相続分の譲渡

 

譲渡した相手、対価の有無で発生する税金が変わります。

 


◆:譲渡した人】に発生する税金

  【他の相続人】へ譲渡 【第三者】へ譲渡
無償 なし ①:相続税
有償 ②:相続税 ③:相続税(+ 譲渡所得税
◆・補足・◆

 

【①】相続税

一旦相続したとみなされ、譲渡した相続分に対し相続税がかかります。

 

【②】相続税

もらった対価に対し相続税がかかります。

 

【③】相続税(+ 譲渡所得税

一旦相続したとみなされ、譲渡した相続分に対し相続税がかかります。

不動産を譲渡し対価を受け取った場合、譲渡所得税も追加課税されます。

 

 

◆:受け取った人】に発生する税金

  【他の相続人】 【第三者】
無償 ①:相続税 贈与税
有償 ②:相続税 ③:基本なし
◆・補足・◆

【①】相続税

譲渡された分の相続税が増えます。

 

【②】相続税

支払った対価分、相続税が減ります。

 

【③】基本なし

著しく低い金額で譲り受けた場合、贈与税が発生する可能性があります。

【違いを知る③】相続税と取得できる遺産額

次に解説する内容は、他の相続人への影響。

『相続税の金額』と『取得できる遺産額』をそれぞれ計算してみました。

 

今回は、【相続放棄】と【相続分の放棄】を比較。

【相続分の譲渡】は条件を自由に設定できるため、省いています。

 

計算条件と計算結果は以下のとおりです。

詳しい計算内容が気になる人は、以降もチェックしてみて下さい。

 

 

◆・【条件】・◆

 

相続人

  • 子A
  • 子B
  • 子C

 

遺産額

  • 1億2,000万円

 

補足

  • 『子C』が相続放棄、または相続分の放棄をするものとする
  • 借金はないものとする

 

◆・【計算結果】・◆
  相続放棄 相続分の放棄
  相続税 取得遺産額 相続税 取得遺産額

0円

~460万円

5,540万円

~6,000万円

0円

~592万円

6,608万円

~7,200万円

子A 197万5,000円 2,802万5,000円 148万円 2,252万円
子B 197万5,000円 2,802万5,000円 148万円 2,252万円

相続放棄】計算詳細


★:計算ポイント
  • 基礎控除額は『相続放棄した人も人数に入れる
  • 配偶者控除を適用させれば、『妻は1憶6,000万円まで相続税はかからな

 

◆:相続税

◆・STEP①:【基礎控除額】・◆

 

3,000万円 + 600万円 × 4人 = 5,400万円

◆・STEP②:【課税対象】・◆

 

1億2,000万円 - 5,400万円 = 6,600万円

◆・STEP③:【相続税】・◆

 

【 妻 】

6,600万円 × 1/2 = 3,300万円

3,300万円 × 20% - 200万円 = 460万円『配偶者控除』を適用させれば0円

 

【子A】

6,600万円 × 1/4 = 1,650万円

1,650万円 × 15% - 50万円 = 197万5,000円

 

【子B】

6,600万円 × 1/4 = 1,650万円

1,650万円 × 15% - 50万円 = 197万5,000円

 

 

◆:取得金額

◆・STEP①:【相続分】・◆

 

【 妻 】:1/2

【子A】:1/2 ÷ 2人 = 1/4

【子B】:1/2 ÷ 2人 = 1/4

◆・STEP②:【遺産の分配額】・◆

(遺産額に相続分を掛ける)

 

【妻】

1億2,000万円 × 1/2 = 6,000万円

 

【子A】

1億2,000万円 × 1/4 = 3,000万円

 

【子B】

1億2,000万円 × 1/4 = 3,000万円

◆・STEP③:【取得金額】・◆

(相続税を引く)

 

妻】

6,000万円 - (460万円~0円)= 5,540万円~6,000万円

 

【子A】

3,000万円 - 197万5,000円 = 2,802万5,000円

 

【子B】

3,000万円 - 197万5,000円 = 2,802万5,000円

相続分の放棄】計算詳細


★:計算ポイント
  • 基礎控除額は『相続放棄した人も人数に入れる
  • 放棄した人の相続分を『他の相続人の相続分にプラス』する
  • プラスする相続分は、元々の相続分の『比率に合わせ分配』する

 

◆:相続税

◆・STEP①:【基礎控除額】・◆

 

3,000万円 + 600万円 × 4人 = 5,400万円

◆・STEP②:【課税対象】・◆

 

1億2,000万円 - 5,400万円 = 6,600万円

◆・STEP③:【相続税】・◆

 

【妻】

6,600万円 × 3/5 = 3,960万円

3,960万円 × 20% - 200万円 = 592万円『配偶者控除』を適用させれば0円

 

【子A】

6,600万円 × 1/5 = 1,320万円

1,320万円 × 15% - 50万円 = 148万円

 

【子B】

6,600万円 × 1/5 = 1,320万円

1,320万円 × 15% - 50万円 = 148万円


 

◆:取得金額

◆・STEP①:【元々の法定相続分】・◆

 

【 妻 】:1/2

【子A】:1/2 ÷ 3人 = 1/6

【子B】:1/2 ÷ 3人 = 1/6

【子C】:1/2 ÷ 3人 = 1/6

◆・STEP②:【再分配された相続分】・◆

 

◆:元々の相続分の比率

妻:子A:子B = 1/2:1/6:1/6 = 3:1:1

 

◆:子Cの相続分『1/6』を『3:1:1』で再配分しプラス

【妻】

1/2 + 3/30 = 3/5

 

【子A】

1/6 + 1/30 = 1/5

 

【子B】

1/6 + 1/30 = 1/5

◆・STEP③:【遺産の分配額】・◆

(遺産額に相続分を掛ける)

【妻】

1億2,000万円 × 3/5 = 7,200万円

 

【子A】

1億2,000万円 × 1/5 = 2,400万円

 

【子B】

1億2,000万円 × 1/5 = 2,400万円

◆・STEP④:【取得金額】・◆

(相続税を引く)

 

【妻】

7,200万円 -(592万円~0円)= 6,608万円~7,200万円

 

【子A】

2,400万円 - 148万円 = 2,252万円

 

【子B】

2,400万円 - 148万円 = 2,252万円

ぴったりな方法はどれ?選択する判断基準

「結局どれを選ぶべき??」

 

違いは分かったけれど、どの方法が良いのか迷う人もいるでしょう。

最後に、ぴったりの選択肢を見つけるのに役立つ【判断基準】をご紹介。

ポイントとしては4つ。

 

◆:借金の有無

◆:遺産額を増やしたい相手の有無

◆:他の相続人との関係

◆:相続への意欲

 

相続の方向を決める目安として、参考にしてみて下さい。

こんな人は【相続放棄】がいいかも

 

  • 借金は絶対に背負いたくない
  • 連帯保証人としての義務を引き継ぎたくない
  • プラス財産よりマイナス財産が多いことが明確で、相続するメリットがない
  • 他の相続人と連絡を取りたくない
  • 相続権が移ることに問題がない、または気にしない
  • 相続そのものが面倒で離脱したい
  • 遺産全体を把握しきれず、借金がどのくらいあるか不明確

こんな人は【相続分の放棄】がいいかも

 

  • 借金がない
  • 借金はあるが、相続しても問題ない
  • 他の相続人との仲が悪くない、話し合いが可能である
  • 他の相続人が取得できる遺産額を、平等に増やしたい
  • とくに遺産額を増やしたい相手もいなく、とにかく離脱したい
  • 穏便に遺産分けから離脱したい
  • 遺産争いに巻き込まれたくない

こんな人は【相続分の譲渡】がいいかも

 

  • 借金がない
  • 借金はあるが、相続しても問題ない
  • 譲渡したい相手がいる
  • 一部だけ譲渡したい
  • 譲渡したい相手が第三者
  • 複数の人に譲渡したい
  • 仲の悪い相続人には渡したくない
  • 遺産分けから離脱したい

 

お役立ちmemo
◆・現金が欲しい時にも有効・◆

 

例えば、遺産に不動産が含まれているとき。

『有償』で譲渡すれば、現金を手に入れられます。

 

状況をうまく利用すれば、自分にぴったりの相続が達成できるかもしれません。

【最後に】この記事のまとめ

  • 相続放棄

    ◆:主な目的【借金回避】
    ◆:注意事項【後順位の相続人への影響】
    ◆:手続き 【家庭裁判所へ申立て】
     
  • 相続分の放棄

    ◆:主な目的【穏便な相続離脱】
    ◆:注意事項【支払い義務の残存】
    ◆:手続き 【意思表示&遺産分割協議書への署名・捺印】
     
  • 相続分の譲渡

    ◆:主な目的【特定の人への遺産分与】
    ◆:注意事項【支払い義務の残存・各種税金発生】
    ◆:手続き 【相続分譲渡証書での契約】

 

相続対策は、今回お伝えしたこと以外にもたくさんあります。

相続人の事情は十人十色。

状況を見極め、オーダーメイド式でベストな方法を見つけるのが理想的です。

  • 他にどんな方法があるのか知りたい
  • トラブルが起きたときの対策を知りたい、対処してほしい
  • 不仲な親族との交渉を任せたい
  • 節税も視野に入れたい

 

相続での悩み、アドバイスが必要な方は一度専門家へ相談してみましょう。

おすすめは、あらゆる専門家と連携が取れる『ワンストップサービス』を利用できるところ。

相談内容に合わせあちこち歩き回る必要がないため、ストレスなく進められます。

 

まずは無料相談を利用し、様子を見てみるのも一つの手。

信頼できそうであれば正式に依頼し、対策していきましょう。

 

 

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